楓: 「んー…………、これはこうかな……」
    俺がやってきたことにも気づかずに黙々とノートに解答を書き込んでいた。
    集中を途切れさせるのは悪いが……。
如月:   「今いいか、楓?」
楓: 「うひょ!? お兄さん、いたんだ!? 全然気づかなかった……」
如月:   「それだけ集中してたんだろう。そんなときにすまない。義兄さんからコーヒーの差し入れだ」
楓: 「店長さんから!? ありがと~! あとで直接お礼を言っておこっと」
如月:   「新しく仕入れた豆で淹れてみたそうだ」
楓: 「じゃあ、たぶん感想を聞かせて欲しいんだと思うから、それも伝えとくね」
如月:   「ああ、頼む」
    コーヒーをテーブルに置くと楓が香りをかいだ。
楓: 「ああ、いい香り。疲れた頭に染みるぅ~」
如月:   「佐奈がいなくてもちゃんとやってるんだな」
楓: 「もっちろん。みんな疑うけど、わたし、やるときはやるんだよ?」
如月:   「そこだけ聞くとかっこいいんだが……」
    だから最初から授業を真面目に聞いておけば……とも思うが。
如月:   「邪魔をしてすまなかった。がんばれよ」
楓: 「ああ、お兄さん、待った!」
如月:   「ん?」
楓: 「七瀬さんとはその後、どうなんですか、ダンナ?」
如月:   「……旦那って誰だよ」
    会話の流れからして俺だろうけれど。
楓: 「誤魔化すなんて憎いね! このっ、このっ」
如月:   「何が言いたいんだ……。楓も見てると思うが、楽しそうに仕事をしていて優秀だし、
 家でもお互いの部屋があって不都合はないぞ?」
楓: 「……それだけ?」
如月:   「ああ。それ以上は特に何もないが?」
楓: 「つまんないー」
如月:   「俺に楓を楽しませる義務はないだろ……」
楓: 「ま、いっか。じゃあ、勉強しよ」
    ……何だったんだ。まあ、俺もカウンターに戻るか。